突然始めてみたこのコーナー。初回にお話を聞いた中の人は、ワイツーシーワークス所属の劉悦(リウ・ユエ)さん。
これまで日本の有名アニメ作品や実写映画、ドラマ、ミュージカルなどの日中字幕翻訳を数多く手掛けていて
他にもY2Cの手がけた中国語作品のネイティブチェックも行っています。
そんな劉さんに日中翻訳や中日翻訳について質問してみました。 聞き手:小鹿子 ![]()
小鹿子:普段どんなお仕事をしていますか?
劉さん:日本語の作品に対する中国語(簡体字・繁体字両方)の字幕翻訳や作成を主に担当しています。
また、中国語から日本語への翻訳チェックも行っています。
小鹿子:日本語から中国語への翻訳で難しい点や気をつけている点って何でしょうか?
また、難しいと感じるジャンルや好きなジャンルはありますか?
劉さん:特に難しいのは、時代背景に根ざした流行語や何か特別な意味を持つ「ネタ」的な表現です。
これらが「ネタ」だと気づかずに訳してしまうことがあり、それを適切な中国語に置き換え、
その「ネタ」感を伝える訳を考えるのが大変でした。
小鹿子:そうそう、特にアニメ作品とかそういうのよくありましたね。
中国語作品も「ネタ」関連が出てくると、脳ミソ絞ります。
劉さん:他にもミュージカルや舞台、歌舞伎などの演劇作品をたくさん翻訳してきましたが、
歌詞の翻訳はセリフよりもずっと難しく、原語の意味を深く理解しなければなりません。
そのため、ネイティブ(日本人)の方に助けてもらうこともよくあります。
韻を踏んだり、演劇らしい表現に仕上げたりするために工夫を凝らしています。
また、スポーツや特殊な職業が絡む作品では、専門用語の正しい使い方を調べる必要があり、こちらも大変です。
個人的にはコメディが大好きで、これもまた難しいジャンルだと思います。一見くだらない表現ほど翻訳は難しく、
キャラクターにふさわしい表現や口調を選び、中国語の流行語、ネタ、方言、訛りなどをどう活用するか、
悩みながらも楽しんで取り組んでいます。
小鹿子:翻訳表現をブラッシュアップする上で心がけていることはありますか?
劉さん:セリフの場合、その時代に合った表現を選ぶことを心がけています。
時代劇なら古風な言い回しを使い、現代的な表現は避けるようにします。
キャラクターの性格や性別、会話相手との関係性なども、表現選びに大きな影響を与える要素です。
また俳句やなぞなぞ、呪文、決まり文句など、特殊な表現に関しては、単に意味を翻訳するだけでなく、
その形式や雰囲気をできるだけ再現するようにしています。
小鹿子:心に残った日本語作品はありますか?
劉さん:「連獅子」「京鹿子娘二人道成寺」「楊貴妃」などのシネマ歌舞伎シリーズを翻訳しました。
古典的な作品だからこそ、適切で美しい表現を心がける必要があり、
その過程で日本の古典劇の美しさを深く感じることができました。
また、東北復興やコロナ禍のリモートワークをテーマにした映画で、
作中の東北弁を私の出身地である中国東北部の方言に変えて翻訳したことがあります。
ほんの少し遊び心を入れたこの試みは、非常に楽しい経験でした。
小鹿子:次に中国語から日本語への翻訳チェックについて質問です。
チェックの際に気を付けていることや難しい点はありますか?
劉さん:誤訳の指摘ももちろん重要ですが、セリフの細かいニュアンス、特別な口調の意図、
専門ジャンル特有の用語、流行語やネタの有無などについて、中国語ネイティブとして正しく判断し、
確認することも大切だと考えています。
小鹿子:いろいろな中日翻訳者の訳文をチェックしているかと思いますが、
よくある間違いや気をつけたほうがいい点とかありますか?
劉さん:特に時代劇や宮廷物など、特殊な用語が使われる作品では、誤解しやすい言葉がいくつかあります。
(例えば「走水」は水害ではなく、火災を指す場合など)
また、中国語には同じ発音で異なる意味を持つ言葉が多いため、
例えば「好好吃」が「おいしい」とも「しっかり食べなさい」とも解釈できる場合があり、映像を確認することが非常に重要です。
長編ドラマでは、あるセリフの本当の意味が数話先で明らかになることが多いため、その点も注意が必要です。
小鹿子:ネイティブチェックを行って印象に残っている作品はありますか?
劉さん:『太子妃狂想曲』や『慶余年』のようなタイムスリップ要素のある作品は印象的でした。
現代と古代の言葉遣いの切り替えは大変なポイントだと思います。
小鹿子:『太子妃狂想曲』は懐かしいですね。タイムスリップした現代人が古代人になるだけではなく、
男性が女性になるので当時は斬新な設定でした。
中国語で「女はよく一緒にトイレに行く」というような原文を「女はすぐ連れションする」みたいに訳した覚えがあります。
劉さん:時代劇だと『長安二十四時』や『鶴唳華亭』が特に印象に残っています。
中国語の原文自体が非常に難しいので言葉遣いや表現の解釈に苦労しながらも、
チェックを終えて非常に達成感のあった作品でした。
小鹿子:確かにあの両作は格段に原文が難しい作品の一つでしたよ…。
劉さん:京劇を題材にした『君、花海棠の紅にあらず』や、Eスポーツを扱った『GANK YOUR HEART-キミと、世界の果てまで-』、囲碁をテーマにした『ヒカルの碁』、SFの『三体』など、専門的な知識や用語が必要な作品では、翻訳者の皆さんが本当に頑張って仕上げたと感じています。
小鹿子:今後チャレンジしてみたい作品のジャンルややってみたい仕事はありますか?
劉さん:映画や連続ドラマなど、さまざまなジャンルのエンターテインメント作品に引き続き関わっていきたいと思っています。
まだ挑戦したことがないジャンル、若者の流行文化に近い内容などにも積極的に取り組んでいきたいです。
小鹿子:多謝! 今後のご活躍を期待しています! ![]()